2001年7月20日付 朝日新聞朝刊 家庭欄「ひととき」より〜

●「老春時代」真っ最中

  2年前、16年間介護した夫を亡くし、心のなかに大きな穴があいて、
  悲しみと寂しさで来る日も来る日も涙とため息ばかりでした。

  半年ほどたったある日、ふと見たテレビドラマで主人公の人なつっこい
  顔と優しいまなざにし、心が温かくなりました。
  その後もそのドラマのビデオを何回も借りて見ました。

  この俳優は香港の歌手で張國榮(レスリー・チャン)と言う人でした。
  ライブを広告で知り、一人で行きました。
  大勢の若いファンの中で、一人座ったまま聴いていました。
  元気なロックや柔らかく甘いフォークソングを聴いているうちに、
  心がいやされていく気がしました。

  それから元気を出そうと思い、まずは長い介護で痛めた腰を治すために
  プールに行きました。
  次にボケ防止には指先の運動をと、ピアノを習い始めました。
  息子が中国へ転勤になったので、すぐパソコンを習い、今では毎日息子と
  メールの交換が出来るようになりました。
  いつか中国にも行きたいと思って中国語もやりだしました。

  目下おけいこに忙しい毎日で、今までどこにこの元気があったのか自分でも
  わかりません。そして、こんな楽しい日を送れるとはだれが思ったでしょう。
  戦時中育ちで青春時代がなかった私は、今こそ「老春時代」を謳歌しています。

  東京都 稲葉 悦子  主婦 79歳


ご冥福をお祈りします。。。

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